坂口安吾「紫大納言」論――本文異動・典拠をめぐって――

原 卓史

 坂口安吾「紫大納言」(『文体』一九三九年一月)は、大幅に加筆修正されて、初刊本『炉辺夜話集』(スタイル社出版部 一九四一年四月)に収録された。この大幅な改稿については、これまでの研究で繰り返し取り上げられてきており、生成論的なアプローチは主要な論点の一つとなっている。また、数多くの古典文学を典拠として成立した〈説話もの〉の作品であることも明らかにされてきた。これらの問題について、研究の成果を今一度整理しておこう。
 一方、近年ではモダニズムやファルスなどの西洋文学との関わりについて論じられるようになってきている。しかし、〈説話もの〉と捉えるにせよ、西洋文学との関わりで捉えるにせよ、これまで一度も触れられたことのない問題がある。それは、スキュデリをめぐって記された一段落についてである。スキュデリが「紫大納言」に記されていることの意味は何か、また本文生成や典拠の問題とはどのように交錯するのか、あるいは一九四〇年前後の同時代の文脈とスキュデリをめぐる言説はどのように切り結ぶのか、などについて検討してみたい。これら一連の作業を通して、新たな読みの可能性を探っていきたい。

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