坂口安吾「村のひと騒ぎ」論

山路敦史

 坂口安吾の「村のひと騒ぎ」(『三田文学』一九三二・一〇)については、奥野健男「解説」(『定本坂口安吾全集』第一巻、一九六八、冬樹社)や安楽良弘「村のひと騒ぎ」(『坂口安吾事典〔作品編〕』(二〇〇一、至文堂)が、「ファルス作品」として高く評価している。とはいえ、これらの文章は発表媒体の形式に基づいたごく短いものであり、「村のひと騒ぎ」という作品に即した評価が充分になされたとはいえない。
 「村のひと騒ぎ」の舞台は、特定の場所や地域が指示されているわけではないが、作中での「段々畑」や「農夫」といった語から農村としては設定されている。「村のひと騒ぎ」の発表と近しい一九三〇〜三二年は、プロレタリア文学陣営と日本全国農民芸術連盟との農民文学をめぐる議論が双方の機関誌や新聞紙上などで活況を呈した時期であった。本発表では、こうした農民文学をめぐる状況に目を配りつつ、「村のひと騒ぎ」の再評価を試みたい。

inserted by FC2 system