「木枯の酒倉から」考―永遠ということ―

岸本梨沙

 一九三六年に発表された「木枯の酒倉から」は坂口安吾の処女作とされている作品であり、今までの研究では、登場人物である「行者」と「蒼白なる狂人」との関係から仏教と文学の対立、文学の挫折を導く論、荒唐無稽なファルスとして読む論が中心であった。
 この小説は奇妙な議論のすえに、「狂人」が窖へ転がり落ち気絶をして幕を閉じるのだが、なぜそのように終わるしかなかったのか。このことは以後の安吾の作品の多くに通じる問題をはらむように思う。加えて、初出では本作品の最後に「附記」が記されていたが、これもまた、以後の安吾作品を考える上で重要な意味を持つものと考えられる。
 今回の発表では、先行研究にならって「行者」と「狂人」との「論戦」に着目しつつ、右のモチーフのもとに両者の論の内容や拠り所、関係性などを確認し、「附記」を含むこの作品のモチーフが安吾の今後にどうつながっていったのかを考察していきたい。

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