織田作之助「俗臭」論―書き換えられたテクストの生成をめぐつて―

柳井貴士

 織田作之助の「俗臭」は一九三九年九月号の『海風』に掲載され、芥川賞の候補ともなったが、『夫婦善哉』の単行本化にさいして、大半を省いた形で所収された。
 「俗臭」は児子権右衛門を長兄とする弟と妹、それから権右衛門の妻の政江を軸とした物語である。紀州を出た児子の兄弟姉妹の流転と、権右衛門の成功/成金が語られながら、弟や妹の動向も配置される。初出版では、その兄弟姉妹の中でも、千恵造という弟に焦点があてられていた。だが改稿版ではその部分が大幅に削除されている。そこで、千恵造が果たしていた役割を確認することで、改稿版が示し得なかった問題点について考察する。
 本発表では、まず書誌的試みとして作品の評価の確認を行い、その上で、作家自身が初出版「俗臭」に対してどのような意識で改稿に踏み切ったかを追う。また改稿版に省かれた、主人公権右衛門の妻政江の人物像と、弟の千恵造と妻の賀来子の担った可能性について考察する。

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