鬼と櫻と女――坂口安吾と夢枕獏

小谷真理

 伝奇アクション作家として知られる夢枕獏は、1951年1月1日神奈川県小田原市生まれ。 1977年、筒井康隆主催のSF同人誌『ネオ・ヌル』にタイポグラフィクション「カエルの死」が掲載され、 同作がSF専門誌『奇想天外』に転載されて商業デビューした。その後、 1981年に双葉社より初めての新書書き下ろし『幻獣変化』を刊行。1982年、朝日ソノラマ文庫でキマイラ・シリーズを開始し、 1984年、祥伝社ノン・ノベルで「魔獣狩り」シリーズ三部作を発表して、一躍ベストセラー作家になった。1989年には『上弦の月を喰べる獅子』で第10回日本SF大賞を受賞している。
 1991年に刊行された編著『鬼譚』は、夢枕の編集する日本の鬼に関するアンソロジーであるが、その冒頭は、坂口安吾「桜の森の満開の下」で始まっている。夢枕は、巻末解説で、坂口の短編にふれ、「"桜が恐い"という、誰の心の中にも存在している不可思議な、ほとんど生理的な得体の知れない恐怖、不安感を、ここまでうまく表現した作品はないのではないか。桜。女。鬼。美と性と恐と、これらが皆同じ根から生じた果実であることが、理屈でなく染み通ってくる。」と述べ、自ら坂口作品へのオマージュとして、短篇「檜垣ーー闇法師」を同アンソロジーによせている。このアンソロジー編纂後、夢枕は、梶井基次郎「櫻の樹の下には」にインスパイアされて『腐りゆく天使』を、手塚治虫「安達ヶ原」にインスパイアされて『黒塚』を執筆していくのだが、一連の「櫻と鬼と女の幻想」小説には、明らかに坂口安吾の幻想短篇の影響が見られる。
 従って本論考では、夢枕の作品から説き起こし、坂口安吾の幻想小説における「櫻と女と鬼」について、フェミニズム批評の見地からの考察を試みる。

(この発表要旨は研究集会に先だって会員に配布されたものです。)

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